臨時社長秘書は今日も巻き込まれてます!
「もう、六年にもなっていますのに?」

社長は一瞬だけ驚いたように目を見開き、それからすっと視線を逸らして庭園の方を見る。

「お前は健全だな」

「おかげさまで……というか、取材を断っても前社長夫妻が亡くなったのは事実ですし、社長がこの業界では異例の若さなのも事実じゃないですか」

間違ってはいないし、事実だけど。

あまり構われたくないって事かな?

「いずれか1社を選んで、できるだけセンセーショナルに書きたてない会社を選ぶとか……」

「いや。今は時期的にもまずいな」


時期的にもまずい?

キョトンとしたら「失礼いたします」と声がかかり、着物を着た女性がお料理を持って入って来たから口を閉じる。

「どうぞ、ごゆっくりなさってくださいませ」

にっこりと微笑む彼女に微笑みを返し、並べられた料理を眺めた。

えっと……一口大のお豆腐。その上には梅肉の薄紅色。

こっちはオクラの和え物。

最期に小さくカットされたトマト。

それぞれが小さな器に盛られている。


「先付だな。突き出しとかお通しともいう」

教えてくれる社長に微笑みを漏らした。

正直に“わかりません”と言ったから、教育してくれるようだ。

「ありがとうございます。本気で懐石料理っぽいですね。それで、今は時期的にまずいとは?」

「……今は、お前との関係を“婚約者”として発表されそうになっている。なので、取材は受けていない」

あっさり言われて口をあんぐりと開けた。


ええええええ。
< 64 / 255 >

この作品をシェア

pagetop