臨時社長秘書は今日も巻き込まれてます!
いや、ちょっと待って。

でも、ほら社長は目の前にいるわけで……。


ううん。違う違う。

今はいわば共犯関係だから、優しく見えるだけ!

野村さんが帰ってきたら、私はいつも通りの生活に戻るわけだし。

私は別に社長の事なんて、観葉植物としか見ていない!


頭を冷やせ私! 仕事しろ私!

忙しいんだよ。社長はけっこう思っていたよりアクティブな人だから忙しいんだよ!


頭をガンガンとデスクにぶつけていたら、ドアがガチャリと開く音がして慌てて姿勢を正した。


「何やっているんだ、お前は」

社長が訝しげな顔をして見てくるから、何気なく微笑みながらデスクを片付ける。


「デスク回りの整理整頓をしておりました」

「……そうか。お前の整理整頓は変わっているな。頭突きで片付くとは思えないが」


……見ていたなら見ていたと言って欲しい。

誤魔化した私が、めちゃめちゃ痛い人じゃないか!


ムッとした顔に気がついたのか、社長は眉を上げながら意地悪そうに笑う。

「やっぱりお前は変わった奴だな」

そう言いつつ、またきちんと包み直されたお弁当箱と、空になった湯飲みを差し出してきた。

「え。ちゃんと噛んで食べましたか?」

「お前は、いつから俺の母親になったつもりだよ」

「なれるはずがないじゃないですか!」

噛みつくように言ってから立ち上がると、お弁当箱と湯飲みを受けとる。

「ごちそうさん。ありがとう」

「……あ。はい」

「明日はコロッケじゃなく唐揚げが食いたいな。それから、食後のコーヒーを頼む」

最後に爽やかな営業用かと見紛うばかりの笑顔を振り撒き、彼は執務室に戻っていった。

私はポカンと、閉まったドアを凝視する。
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