臨時社長秘書は今日も巻き込まれてます!
「こうも見事に、普通に接してくる人間はいなかった」

「全くいなかったわけではないでしょう?」

「会長と副社長はきっと普通だな。両親は……まぁ、あの二人とまともに話をしたのは進路の時くらいか。後は小杉と勝子さんだが、この人たちはどちらかと言うと身内の部類だろう」

祖父である会長と、叔父である副社長やご両親は“部類”ではなくて、間違いなく“身内”でしょう?

……なんだろう。今、まざまざと身内と社長の溝を見せらている気がするのは私だけ?

「後は……羽柴が遠慮容赦ないくらいだな。入社当時、よく同期と飲みに連れていってもらった」

あの狸オヤジが何を考えているかはわからないけど、話を聞いていて思うのは……。

社長って、孤独なんだろうってことか。


「……どーしてお前が可愛そうなモノを見るかのように、俺を見てくるのかがわからん」

「だって社長。そもそも亡くなったご両親と会話してないとか……」

小さな子供の頃って、父親母親とする会話って大切なんじゃないかな。

そうやって言葉って覚えていくものだろうし……。

「仕方ないんじゃないのか? あの当時は祖父さんが社長で、親父は副社長だったはずだし、母は専務だったし」

……それは知らなかったけど。

「別に寂しいとは思わなかったぞ。お前がそれを心配しているなら」

社長はゆったりと座り直し足を組むと、優しい笑みを浮かべる。

「勝子さんは住み込みだったし、送り迎えには小杉がいたし。やんちゃな遊びは彼に教わったが……」

社長は言葉を止めて、少しだけ困ったように指先で鼻の頭をかいた。

「俺が偉そうなのは、そこが起因か」

思い付いた原因に、彼は今更ながら気がついたみたい。
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