臨時社長秘書は今日も巻き込まれてます!
ストレートだという以外に取り柄のない黒髪は、下していたら腰くらいまである。

仕事中には邪魔だから三つ編みにしてロープみたいになっていた。

うちの会社はオフィスカジュアルを推奨しているけれど、どちらかと言うと私はカッチリ目な地味色スーツ。

もちろん吊るしの一着と言うやつだから、脇とかガボガボしてるけど、仕事には動きやすさも大切だと思ってる。

「オールドミスか」

「失礼な」

思わずボソリと呟くと、社長の片方の眉がピクリと跳ね上がった。

「お前こそ失礼だ。全く来客がないわけでもない。秘書課勤務3年も経つのにリクルートスーツしか買えないのかと思われるだろうが。そういう格好が許されるのはせいぜい1・2年だぞ」

あれ? 顧客に対してのこと言われてる? 私の“失礼”発言は失礼にならないのかな?

もしかして今、軽くスル―されている?

「まぁ、あのミスクイーンよりはマシか」

ミスクイーン? ああ、春日井さん?

溜め息混じりの社長に眉を上げた。

「マシとは何ですか! どんな格好だろうが仕事くらい出来ます! きちんと仕事をするくらいのスキルもございます!」

秘書課を婚活の場所だと勘違いしている春日井さんと比べないでいただきたい!

だけど、社長は激高した私に対してひどく冷静に頷いた。

「そうかそうか。それは楽しみだ。女はすぐに根を上げるからな。絶対に弱音は吐くなよ?」

ニヤリと笑う酷薄な笑みに、ちょっぴり後悔したけど。それは後の祭りだった。





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