さよなら、世界
ドン、と空を叩きつけるような音が少しずつ鮮明になっていく。ふたり乗りの自転車を飛ばして遊馬が連れてきてくれた場所は、運動公園の見晴台だった。
「ここ、意外に穴場なんだよ」
「うん……なつかしい」
正面に次々と開花する火の花を眺めながら、友達と何度かこの場所を訪れたことを思い出した。
「あれ、来たことあった?」
「私、この近くに住んでたから」
見晴台にはちらほらと人がいた。ベンチで身を寄せ合うカップルや、手すりにもたれながら花火そっちのけでお互いを見つめ合う男女。よく見ると若い格好のカップルばっかりだ。
目のやり場に困っている私と違って、遊馬はまっすぐ花火を見つめている。「すげー」と目を輝かせる様子は、いつか曇天の虹を見つけたときと同じだ。
「もしかして、毎年ここで花火見てたの?」
私が訊くと、彼は手すりに腕をあずけながら答える。
「ガキの頃は兄貴とよく来てたけど、最近は仲間と会場に行くほうが多かったかな」
「そうなんだ」
それなら、子どもの頃にすれ違っていたかもしれない。
母親に連れられて、ここではじめて花火を見た日のことを思い出した。
何歳の頃だったか、友達とケンカをして落ち込んでいた私の手を引き、母はこの場所にやってきたのだ。
『ほら瑞穂ちゃん、花火よ。きれいねぇ』
友達とちょっとケンカをしたくらいで世界が真っ暗になってしまう小さな胸に、夜空に浮かんだ花はあざやかな色を落とした。
『明日ちゃんと謝れば、また仲良しに戻れるわよ』
ふっくらした頬を持ち上げて優しく笑った母の顔は、私にやすらぎを与えてくれた。母の言葉なら、なんでも信じられた。私の世界を形作っていたのは、彼女だった。