さよなら、世界
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自転車の後ろに乗って、坂道をおりる。泣いたせいで火照った顔を、風が冷やしてくれる。遊馬は何も言わないまま、私を川崎家まで送り届けてくれた。
塀の前に立つシルエットに一瞬ぎくりとしたけれど、玄関ポーチの明かりで七都だとわかり、遊馬は自転車を門扉の前に停める。
「おせえ!」
焦れたように七都が私の腕を掴んだ。
「今なら玄関から入れる。はやく」
「う、うん、待って」
私は遊馬を振り向いた。ハンドルを握った手に、両手をかぶせる。風を受けたせいか、彼の手はしっとりと冷えていた。
「今日、ごめんね」
遊馬は固まったように私を見ている。いつも朗らかに笑っている彼からしたら、めずらしい表情だ。
「来てくれてありがとう。嬉しかった」
「え、い、いや」
目をきょときょと動かしている彼に「おやすみなさい」と告げて、私は七都と玄関をくぐった。
音を立てないように扉を閉じ、スニーカーを脱いで下駄箱にしまう。七都が「しいっ」と人差し指を口元に立てて、先に廊下を進んだ。手招きをされ階段まで急ぐ。すぐ脇の脱衣所からドライヤーの音が聞こえていた。
「七都ぉ?」
声がして、ふたりで固まる。一瞬遅れて、七都が「何?」と声を張り上げた。脱衣所のほうを見ながら、早く行けというように手を動かす。私は息を殺しながら階段をのぼった。
「お風呂空いたわよぉ」
「わかった、入る」
答えながら、わざと音を響かせるようにして七都が階段をのぼってくる。私が部屋に入ると、彼は目配せをするように私を見て、扉を閉めた。かちゃん、と鍵のかかった音がする。
それを聞いて、一気に力が抜けた。それから私は、部屋の中に人影を見つけた。