さよなら、世界
黒板を走るチョークの音と先生の声は、普通に聞こえる。振り返った先生と目が合っても、焦点を結ばない先生の目線は、本当に私と交錯しているのかわからない。
一週間経って、私ののんびりした頭も、ようやく状況を理解しはじめていた。
どうやらこれは、私を陥れるための盛大なドッキリというわけでも、私が通学途中で異空間に迷い込んで異世界の学校にたどり着いてしまったわけでもなく、たんに私の目がおかしくなっているだけらしい。
奇妙な面相をしていることを除けば、休み時間におしゃべりをしたり、笑い合ったり、携帯で連絡先を交換したり、クラスメイトたちはみんな、どこにでもいる普通の高校生だ。
いちばん後ろの席で良かったのか悪かったのか。ぼんやりと教室を見渡しながら、考える。
表情のないたくさんの気配を背中に感じているよりは、彼らの墓石じみた無個性な背中を見ているほうが、多少は気が楽なのかもしれない。