さよなら、世界


 チャイムが鳴り、教材を持った生徒たちがわらわらと教室を出て行く。次の授業は、たしか美術室だ。

 扉に近い私の席は、休み時間になると通り道になる。同じ顔をした生徒たちが群れて迫ってくる様は、やっぱり恐ろしくて、私は彼らの波が途切れるまで、下を向いてやりすごした。

 この一週間で、私に話しかけてくれた子が何人かいた。でも、私には誰が誰だか区別がつかない。ああ、とか、うん、とか、当たり障りのない返事ばかりしているうちに、私は早々に変な奴のレッテルを貼られて、声をかけられることがなくなった。

 でも、それでよかったのかもしれない。

「ねえ!」

 そろそろ私も移動しようかと思ったとき、やけにはっきりとした声が聞こえた。振り向くと、となりの席の女の子がにこにこ笑っている。

「ねえ、悪いんだけど、ノート見せてくれない?」

「え……」

 動けなかった。廊下側の最後列に座った彼女は、切れ長の大きな目に光をたくさん映して、私を見る。

「どうかした?」

「顔が……」

 口の中が乾いて、声が喉に張り付く。

「え、顔?」

 目を丸める彼女に、私は首を振った。

「なんでも、ない……」

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