さよなら、世界

 気が付くと公園の見晴台に立っていた。暮れかけた夕日が、眼下に見える遊具の影を伸ばしている。アパートから近いこの運動公園にはアスレチックがあり、小さい頃に母とよく遊びに来ていた。

 日が高いうちは子どもたちで賑わうこの場所も、今は静かだ。公園自体が高台にある上に、ローラー滑り台のスタート地点にもなっている見晴台からは、夜に沈んでいく家々が見渡せた。

 鉄柵の手すりは胸の高さまである。触れると手がざらついた。心地よい冷たさに腕を預けて、そのまましばらく沈んでいく太陽を眺める。

 ふいにマリの姿が思い浮かんだ。何のためらいもなく窓を飛び越えてしまった彼女の、眩しい笑顔。私は下側の柵に足をかけた。彼女がやっていたように、腕で身体を持ち上げ、右足を手すりに乗り上げる。そのときだった。

「そこから飛び降りても、死ねないよ」

 背後からの声にドキッとして、足を下ろす。振り返ると、ベンチに人影があった。

 その人はベンチから跳ねるように立ち上がり、私に向かって歩いてきた。いつのまにか点っていた外灯が、彼の姿を照らし出す。

「運がよくて骨折だろうなぁ。悪くて無傷。下の地面が土になってるから」

 腕まくりをした青いパーカーに無地の黒いパンツと赤い靴下を合わせ、一見しただけでも使い込まれているとわかるスニーカーを履いている。フードをかぶった頭部からはオレンジ色に透ける髪がはみ出していて、その下には顔があった。見覚えのある、かわいい顔立ちの男の人だ。

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