さよなら、世界
そのとき、機械的なメロディが鳴り出した。びくりと身体が震える。彼がポケットから携帯を取り出し、ちいさく首を振って私を見る。
鳴っているのは私の携帯だった。
「電話じゃない? 出たら?」
「あ……はい」
こわばった顔に、気づかれただろうか。
倉田遊馬に背中を向け、見えないようにちいさく深呼吸をした。息をそろそろと吐き出し、にわかに騒ぎ出した心臓を少しでも沈めようと試みる。電話に出ると、いきなり言われた。
『どこ?』
予想に反して、川崎七都の声はひどく静かだった。
「あ、あの、私」
『いいから、今どこ』
押し殺したような低い声に、私は自分の居場所を伝えた。
『いまから行く』と残し、通話が切れる。不通音を聞きながら固まっていると、倉田遊馬が顔を覗き込んできた。
「迎えの連絡?」
どう答えていいかわらかず、ひとまず「はい」とうなずいた。迎えに来る相手が、必ずしも私を心配しているとは限らないけれど、倉田先輩は「そっか」と嬉しそうに笑う。
「じゃ、俺もそろそろ引き上げようかな」
セリフとは裏腹に、彼はまた鉄柵に飛び乗る。それから、私を振り向いてにやりと笑う。
「忍者見習いの遊馬様から、君にひと言、助言をあげよう」
「え……?」