さよなら、世界


 連れてこられた保健室で、私は丸椅子に座らされた。養護教諭はあいにく不在らしく、彼が濡れタオルで私の血を拭ってくれる。

「ごめん、大丈夫?」

 私は前のめりになって自分で鼻をつまみながら、「平気だよ」と答えた。ひどい鼻声で恥ずかしい。

「ほかに痛いとこは? 頭打たなかった?」

「へい、き」

 目を上げると、正面に遊馬の顔があった。

「平気なわけないだろ、あんな大回転して!」

「え、そんなに派手に転げ落ちたの、私……」

「そうだよ。死んだかと思ったよ。本当に、ごめんなさい」

 頭を下げられた。叱られた子どものように肩がしゅんと落ちていて、かえって申し訳なくなる。

「ううん、私が勝手に落ちただけだから。ほら、血も止まったし」

「けど、俺がぶつかりそうになったせいでしょ。鼻、折れてない?」

「痛みも引いてきたし、大丈夫だと思う……え、私の鼻、曲がってる?」

「曲がってないよ。血の量が多かったから、心配だっただけ」

 彼のこわばっていた表情がかすかに緩んだ。それを見て、私もほっとする。

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