さよなら、世界


 倉田遊馬は小柄で細身だと思っていたけれど、決して軽いとはいえない私を軽々と持ち上げてしまうくらい、腕も胸も引き締まっていた。二階の高さをのぼったり飛び下りたりする身体能力を持っているのだから、当然といえば当然かもしれない。

「トレーニングしてたの?」

「いや、階段見て思わず身体が動いちゃったっていうか。人がいないのを確認したつもりだったんだけど、甘かった」

 私が階段の踊り場に立つ直前に、彼は下を見て誰もいないことを確認していたらしい。悪いことをしたな。

「人に怪我させたなんて、兄貴に知られたら殺される……」

 遠い目をする彼の言葉が耳に残った。

「お兄さん?」

「うん。俺の師匠」

「え、じゃあ本物の忍者?」

 身を乗り出す私を見て、あっけにとられたような顔をし、倉田遊馬はふわっと表情を崩した。

「あはは」と屈託のない笑みを見せられて、身体の内側がむず痒くなる。全身の血がざわざわと騒ぐみたいで、なんだか落ち着かない。

「それ、まだ信じてたんだ」

「え……」

「ごめんね、忍者じゃなくて、パルクールだよ」

「パルクール?」

 質問されることに慣れているらしく、彼は滑らかな口調で言う。

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