さよなら、世界
「簡単に言うと、走ったり、跳んだり、登ったりして自分の身体を鍛えることかな。最近スポーツとしても認識されてるみたいだけど、本来は移動術なんだ」
平均台よりも幅の狭い手すりの上を軽々と跳び移ったり、風のように走りながら次々と障害物を乗り越えたり、アニメや漫画で見たことがあるような動きを、あの日、倉田遊馬は実際にやってのけた。
「つまり、忍者みたいな動きをすることを、パルクールっていうの?」
「そうそう。壁を蹴って上に跳んだり、手すりに立ってバランス取ったり、高いとこからとびおりたり。人間って、鍛えればそういう動きができるんだよ」
「雨どいをつたって二階にのぼったり?」
「屋根から屋根に飛び移ったり」
特別なことではない、というように彼は笑う。並外れた身体能力は、バランス感覚を養ったり筋トレをしたりという、日々の努力の賜物らしい。
「すごいね……」
「でもやっぱり学校ではやるべきじゃなかったな。ミズホちゃんに迷惑かけんの二回目だし」
「いや、私は」
「人に迷惑をかけないっていうのが、パルクールをやる上で一番の約束事なんだ」