さよなら、世界
「これ、腫れるんじゃないの」
本当は冷やしたほうがいいんだろうか。保健室に連れて行こうかと訊くと、彼女は首を振った。どうせさっきのやつらが居座っているからと。
僕はポケットから正方形の絆創膏を取り出して、慎重に剥離紙を剥がした。
「あーあ、せっかくきれいな顔してんのに」
気休めの絆創膏を貼り付けると、彼女が目を丸めて僕を見ていた。珍獣でも見るかのような視線に、なかば不快な気持ちがこみあげる。
「え、なに?」
「いま、きれいな顔って言った?」
「……え」
僕はとっさに口を抑えた。完全に無意識だった。
「……言ってない」
僕のささやかな抵抗を、彼女は笑顔ですっぽり包んでしまう。
「いーえ。この耳でしっかり聞きました」
「……忘れてくれない?」
「どうして?」
驚いたように目を丸め何かを言いかけた彼女が、顔を歪めた。傷が傷んだのだろう。
「大丈夫かよ。ほんとあんた、無茶するなあ」
「ふふふ」と楽しそうに笑って、彼女は言った。
「空が青いですなあ」
確かに快晴だった。しかし夜には雨雲が広がると、今朝の情報番組で伝えていた。
「明日はまた雨だよ」
水を差しても、彼女はますます目を輝かせて、僕に笑いかけた。
「それじゃあ、束の間の晴れ間をじっくり堪能しましょう、ユキハルくん」
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