さよなら、世界


「帰り、送ってくよ」

 顔を上げると、倉田遊馬が窓の外を眺めていた。

「え、いいよそんなの」

 あわてて答えると、彼が振り向く。

「頭打ってるかもしんないし、途中で何かあったら困るから」

 語尾に有無を言わさぬ強さがあって、私はたじろいだ。心配されていることに戸惑いを覚える。

 私になにかあって困る人なんて、いるのだろうか。

「変なの」

 思わず声がこぼれた。

「え?」

 倉田遊馬の光を映し込んだ大きな目は、生命力にあふれていて、とても眩しい。

「このあいだは、死ぬのも生きるのも勝手にしろって感じだったのに」

 公園の見晴台で、私が鉄柵に足をかけたとき、彼は突き放すように言ったはずだ。

 この世界に留まるのも、去るのも、個人の自由。

「今回はちょっと怪我したくらいで、そんなに心配してくれて」

「今日のは、完全に俺のせいだから」

 すねたような顔をして、彼は言う。

「昼メシ代はまだ払えないけど、とりあえず今日は送らせて」


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