さよなら、世界


 外に出ると雨は上がっていた。不穏に垂れこめていた黒い雲が流れ、ところどころ薄い白雲がのぞいている。

「自転車で来たの? 雨だったのに」

 駐輪場で黒い自転車を引っ張り出す倉田遊馬に驚いていると、彼は得意げに言う。

「俺んち近いし。歩くよりチャリのほうが濡れないじゃん?」

「歩きで傘をさしたほうが濡れないと思うけど……」

「ほら、乗って」と荷台を叩かれ、私は横向きに座った。荷台のステンレスパイプをつかみながら、つい最近同じようなことがあったと思いだした。運転している人は、まるで正反対の人間だ。

「で、ミズホちゃんちってどっち方面?」

 私が最寄駅の名前を告げると、「駅二つじゃん。近い近い」と彼はペダルを漕ぎ出した。

 雨でぬかるんだグラウンドの脇を通り、二人乗りを見咎められることもなく校門を抜ける。なんとなく視線を感じて振り返ると、門の手前に立っている女子生徒の姿が見えた。

「あ」と声が漏れる。

 マリは私を見て、嬉しそうに笑っていた。大きく手を振る彼女に、気恥ずかしく思いながら、手を振り返す。

「どうかした?」

「あ、うん。友達が」

 言いかけて、口を閉じる。自然とこぼれそうになった言葉を、強引に飲み込んだ。

 ともだち。

「……なんでもない」

 黒く濡れたアスファルトから雨の匂いが立ちのぼる。湿った風にふかれて、私は顔に張り付いた長い前髪を払いのけた。二か月前から伸びっぱなしの髪は、いいかげん目にかかって煩わしい。

「あ、ミズホちゃん、あれ」 

 坂にさしかかったとき、倉田遊馬が声を張り上げた。

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