さよなら、世界


「もし、その女の子が誰かに裏切られて人間不信になってるなら、顔がわかる少数の人は、女の子にとって意味がある人たちってことじゃない?」

 マリの言葉に私は立ち止まる。

「意味のある、人?」

「それか、女の子自身が、本当は信じたいと願っている人たち」

 なんてね、と笑う彼女を見て、凝り固まっていた頭がふわりと緩んだような気がした。そんなふうな前向きな考え方は、私にはできなかった。

「信じたいと、願ってる人たち……」

 理香子さんに突きつけられたときは恐ろしくてたまらなかったけれど、自分で調べると、義眼は私が思っていたよりもポピュラーで、前向きに生きるための道具なのだということがわかっていた。

 世の中にはいろんな事情で視力や眼球を失っている人がいて、義眼を使っている人は想像していたよりもはるかに多い。失った視力は戻らないけれど、義眼でも前向きに生きている人はたくさんいる。片目の視力がよければ健常者と同じように自動車の運転免許も取得できるとも書いてあった。

 見えるものだけが真実とは限らないのなら、目をふさいでしまったほうが物事はよく見えるのだろうか。

 まぶたを下ろしたとき、

「あ、いた! 渡辺さん!」

 急に呼ばれ、私は閉じかけていた目を開いた。

 走り寄ってきたのは、ふたり組の穴顔の女子生徒だった。
 とっさにリボンと上靴に視線を走らせる。チェックのリボンには黄色の校章が縫い込まれ、上靴には黄色いラインが入っている。同じ一年生だ。クラスまではわからないけど、私の名前を知っているということは、同じクラスの可能性が高い。

 そこまで考えてから、隣にいるもうひとりの渡辺に思い至った。しかし、二人組はマリには目もくれず、私の正面で立ち止まる。

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