お砂糖ひとさじ
「百花、もうやめとけって」
呆れ混じりに薫くんが言う。
けど、ここでやめたらコーヒーに負けたみたいで悔しい。
私は強がって首をぶんぶんと横に振った。
「何をそんなムキになってんだよ」
「そんなんじゃないもん……」
「じゃ、何なんだよ」
「………」
唇を尖らせ、まるで駄々をこねる子供のようにむくれっ面をする私に薫くんがまたため息を吐いた。
薫くんを困らせてわがままを言って、これじゃ本当に子供だ。たとえコーヒーを飲めたとしても、私なんかを薫くんが好きになってくれる確証もない。
それでもどうにかしたいと必死になって、薫くんに嫌われてたんじゃ本末転倒だ。
でも、他にどうしたらいいのか分からない。大人っぽい服装をしてみても背伸びをし過ぎて似合わないし、髪型を変えてみたって年齢の差が縮まるわけではなくて、ただ薫くんに私と同じ気持ちになって貰いたいだけ。それが、この世で一番難しいことだって、知ってるから。
諦めた方が、自分のためなのかもしれない。このまま嫌われるくらいなら、妹としてでも一緒にいられるように。
「よし、百花」
しゅんと縮こまる私に何かを察したのか、目の前の薫くんが突然立ち上がった。そしてコーヒーカップと私の腕を掴んでキッチンに向かう。
「カップ持って」
「う、うん……」
そう言って薫くんが取り出したのはお砂糖だった。
「少し甘くなれば百花でも飲めるだろ」
「薫くん……」
薫くんは砂糖をひと匙すくって、コーヒーの中に混ぜた。白いつぶつぶが真っ黒なコーヒーの中にゆっくりと沈んでゆく。そのままスプーンでコーヒーをかき混ぜると、薫くんは「飲んでみ」と私を見た。