Bitter Chocolate
10
ヒカリはもう限界だった。

武志を裏切ったまま生活するのは辛すぎる。

そのうち可南子の口から武志の耳に届くだろう。

それなら自分から言うべきだと思った。

「明日、そっちに行ってもいい?
大切な話があるの。」

「いいけど…お父さん大丈夫か?」

「今は少し安定してるから。」

「話って何?電話じゃ言えないこと?」

「うん。会って話す。」


その時、要は可南子といた。

「ヒカリとはいつから?」

「武志の嫁さんだって知る前から…」

「アタシと付き合う前から?
もしかしてアタシと付き合ったのはヒカリのせい?」

「傷付けたならごめん。」

可南子は怒りを押し殺して言った。

「私が武志に話したらどうするつもり?」

「どうせそのうち話そうと思ってた。

ヒカリに別れる覚悟が出来たらな。」

「私は要さんの何?」

「悪かったよ。
ヒカリをオレのモノにするまで利用するつもりだった。」

可南子は要の頬を叩いた。

「ヒカリは武志と別れないわ。

だいたい武志がヒカリを手放すと思うの?」

「ヒカリが決めることだ。

オレはヒカリを信じる。」

可南子は要に言ってもどうにもならないと悟ってヒカリの家に行った。

「…どうするつもり?」

「武志に話す。
許してもらえないかも知れないけど…」

「武志と別れるの?」

「…今はわかんない。」

可南子は煮え切らないヒカリが苛立たしかった。

「ヒカリ、私は要さんが好きなの。
お願いだから手を引いて。

ヒカリには武志がいるじゃない?

私が黙ってればわからないでしょ?

武志には言わないから。

ヒカリが要さんを諦めれば丸く収まるの。

どうせ一緒になんかなれない。
武志が傷つくだけよ。」

ヒカリは武志を傷つけたくなかったけど
要の事を思いながら武志と暮らすのは武志にも申し訳ないと思った。

でも今は時期が悪すぎる。

父親の身体がこんなときに離婚なんてとてもじゃないけど言えない。

ヒカリはずるいと思ったけど
可南子が言わないで居てくれるなら
父親のために今はこの気持ちを封印するべきだと思っていた。

「わかった。
要さんにはもう逢わない。
だから武志には黙ってて。」

可南子はヒカリが腹立たしかったが、
要を手に入れるために黙っていた。

ヒカリは次の日武志に逢いに行ったが
結局何も言えずにいた。

「ヒカリ…どうかした?
話って?」

「ホント言うとね、逢いたかっただけなの。
寂しくて。」

武志は嬉しそうにヒカリを抱きしめてキスをした。

そしてヒカリは武志に抱かれる。

目を綴じると要の顔が浮かんだ。

武志の指や舌は要のモノとにすり代わる。

ヒカリはそれに感じ、そんな自分が情けなく思えた。

武志は抱かれながら涙を流すヒカリに少し戸惑った。

「どうした?気持ち良くない?」

「そうじゃないの…ごめんなさい。」

「何で謝るんだよ?お父さんのことが心配?」

武志はヒカリの髪を撫で

「オレがずっとヒカリの側にいるよ。」

と言った。

ヒカリの涙はますます止まらなくなって
武志の胸を濡らした。












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