Bitter Chocolate
2
次の日の朝早く、ヒカリはショコラトリーの前にいた。

店は11時からオープンらしく
扉はまだ閉まっている。

今日からオープンで忙しいはずだ。

シャツだけ受け取って帰ればいいと
何度も扉の前を行ったり来たりしたが
なかなか入れない。

だけどあのシャツは武志のお気に入りだ。
取りに行かないワケにはいかなかった。

ヒカリは仕方なく扉を叩いた。

中から要が出てきた。

ヒカリだとわかると何も言わず扉を開けた。

「あの…昨日忘れ物しちゃって…」

「これのこと?」

要は男物のシャツを持ってきた。

ヒカリが受け取ろうとすると
要はそれを引っ込めた。

「少し話を…。」

「ごめんなさい。時間が無くて…」

要は強引にヒカリの手を掴み店の中に引き込んだ。

「少しだけ話そう。」

要はヒカリを店内の椅子に座らせた。

「結婚してるんだな。」

ヒカリの左手の薬指に光るエタニティリングを見ながら
要はヒカリに聞いた。

「何で受け入れた?」

「わからない。ただどうしようもなく惹かれたの。
もうここには来ないから。
ごめんなさい。」

ヒカリはシャツを要の手から奪うように取って立ち去った。

その夜、武志がいつもより少し早く帰ってきて
ヒカリにお土産だとあのショコラトリーのチョコレートを買ってきた。

「ヒカリの大好きなチョコレート。

ここの店、高校の先輩が開いたんだ。

フランスに留学しててさ、
こっちに最近帰ってきて自分の店を作ったんだ。

今度、ヒカリも連れてってあげるよ。」

ヒカリはビックリした。

あのショコラティエと夫がまさか知り合いだと思わなかったからだ。

ヒカリは2度とそのショコラトリーの近くには行くまいと思った。

ところが武志と二人で近所のスーパーマーケットで買い物をしてるとき
「武志!」
と声をかけたのが要だった。

要は隣にいるヒカリを見てビックリした。

「要先輩、この前はご馳走さまでした。

ウチのヤツチョコレート大好きですごく喜んでました。

あ、これが妻のヒカリです。」

紹介されたヒカリは要の目を観ることが出来なかった。

「始めまして。
そこの通りでチョコレート売ってますから
一度来てくださいね。」

初対面のように涼しい顔で言う要にヒカリは戸惑った。

「あ、はい。」

「要先輩、良かったらウチに来て一緒に食事しませんか?

これから庭でBBQしようって話してて買い出しに来たところなんです。

俺の友達もヒカリの友達も来るんです。

あ、高校の頃の阪本って覚えてますか?

アイツも来ますから。」

「でもいきなりじゃ奥さんも大変でしょ?」

要は断ったが
武志は強引に誘った。

「大丈夫です。一人くらい増えたって変わりませんから。
な、ヒカリ?」

「うん…でも急にお誘いしたらご迷惑じゃ…」

「それなら伺います。

武志がどんな家に住んでるか興味もあるし…」

ヒカリは焦ったがどうするわけも行かず
仕方なく頷いた。

「じゃ先輩、後で待ってますね。」

武志は何も知らずに喜んでいた。

そしてその夜、要がヒカリの家にやって来た。


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