Bitter Chocolate
26
自分の昔のことを知ってるこの男はいったい何者なのだろうとヒカリは身構える。

「ヒカリさんが高校生の彼氏と歩いてるの何度も見たことありますよ。

すごく大人っぽくてカッコよかったですよ。

ヒカリさんは俺の初恋なんです。」

「え?」

「俺のこと覚えてません?」

ヒカリは惠佑の存在など覚えてなかった。

「俺たち同じ中学だったんですよ。
ヒカリさんは1つ上の先輩だったんです。

ここに面接に来たときすぐにわかりましたよ。」

「同じ中学の後輩?」

「はい。」

ヒカリは中学の頃を思い出していた。

あの頃は毎日武志と逢って
中学の頃の友達と遊んだ記憶はほとんどなかった。

「坂井歩って覚えてませんか?」

「坂井歩って同じクラスの歩?」

「俺はその坂井歩の弟です。

もっとも高校の時に両親が離婚して今は苗字変わってますけどね。」

坂井惠佑…その名前に聞き覚えがあった。

ヒカリが中学3年の時、
姉の歩が怪我をして家まで送った覚えがある。

その時、歩の家で逢ったのが弟の惠佑だ。

惠佑はバンドをやってるとかでかなり目立つカッコで
初めて逢ったとき銀色の髪をしていた。

「もしかしてあの銀髪の?」

「思い出してくれましたか?」

そしてヒカリが卒業するとき
この惠佑に告白されたことを思い出した。

「俺はヒカリ先輩が好きです。」

そう言っていきなりキスしようとしたのだ。

もちろんヒカリはそれを断った。

「キスしようとしたよね?」

「あ、はい。そんなことしましたね。」

惠佑は笑っていたが
あのときの事はヒカリの心に多少の波風を立てた。

武志以外の男を初めて意識したからだ。

「あの男と別れてください!って言ったりしましたよね?」

惠佑にとっては既に笑い話のようだった。

「変わったよねぇ。
まともな大人になったんだね?」

「ヒカリさんはあの頃と全然変わらないですね。」

「成長してないって言いたいの?」

「いや、そうじゃなくて…」

ホントに一瞬油断したのだ。

惠佑はあのときのようにいきなりキスしようとして
ヒカリはそれを避けきれなかった。

惠佑の柔らかい唇がヒカリの唇に触れた。

ヒカリはビックリして惠佑の頬を叩いた。

「何するの?」

「ずっとこうしたかった。

ヒカリさん、俺と付き合ってくれませんか?」

ヒカリはあのときのように唐突に自分の心の中に入ってきた惠佑を再び思い出した。

今とはまるで風貌は違うけどよく見ると面影がある。

あの頃の惠佑はとにかくカリスマ性があった。

中学の頃、歌が抜群に上手くて
年上の人たちとバンドをやってた。

だから目立っていたってのもあったけど
そのカッコは個性的で惠佑は一部の女子にかなり人気があった。

そんな惠佑が自分を好きだと知って鼻が高かったのも事実だった。

「バンドやめたの?」

「いや、今でもたまにやってますよ。

でも食っていけるほどじゃないですからね。

普段は見ての通りのサラリーマンです。」

ヒカリは惠佑の歌ってる姿が見たくなった。

「ライブやらないの?」

「週末やりますけど来てくれますか?」

「うん。」

こうしてヒカリは惠佑に再び興味を持った。

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