Bitter Chocolate
30
要は結婚が近づくと憂鬱になった。

到底可南子を愛することが出来ないからだ。

お腹に自分の子が居るとわかっても
可南子と生活するのは耐えられないかもしれない。

心の中はいつまでたってもヒカリで一杯だった。

他のモノが入る隙間など無いのだ。

それでも要は可南子に申し訳なくてそばにいる決心をした。

そもそも自分が可南子と寝たのはヒカリへの気持ちを忘れたかったからだ。

ヒカリがもう戻ってこないと知って絶望したとき
そばに居てくれたのは可南子だった。

そんな可南子の好意を利用してしまった。

子供が出来ないように努力はしていたが、
失敗することもあると
要は可南子の言うことを1ミリも疑ったことは無かった。

可南子の誕生日に籍を入れることが決まって
要はようやく腹をくくった。

その日まであと1週間というとき
要は偶然麗子に逢った。

麗子は赤い髪をした派手な男と一緒にいて
要は躊躇って声をかけるのを止め通りすぎた。

しかし麗子の方から要に声をかけてきた。

「要さん!」

麗子は要が振り向くなり言った。

「赤ちゃんのエコーの写真とか見ました?」

「え?」

「可南子に聞いてみてください。

私、どうしても可南子のことが許せないの。」

「どういう意味?」

「可南子に赤ちゃんのエコー写真見せろって…言ってみてください。

ちゃんと持ってるかどうか…。」

「それは…?」

「写真とか最初から無いから出せないと思いますよ。」

要は茫然とした。

「もしかして妊娠は嘘ってこと?」

「私の口からは言えませんから可南子に聞いてください。」

麗子はそれだけ言うと赤い髪の男の元へ走っていった。

要は急いで可南子に連絡をした。

「可南子…1つお願いがある。」

「うん?」

「お腹にいる子供の写真、病院で撮ったろ?

それ見せてくれないか?」

「え?あ、…あぁ…まだ見せてなか…ったよね…」

歯切れの悪い可南子の返事に要は真実を知った。

しかし可南子の事は責めなかった。

要はその夜、可南子に会いに行った。

「写真持ってきたか?」

「それが…見つからなくて…落としたのかも…」

要はあくまでも嘘をつき通す可南子が不憫に思えた。

「可南子…写真なんて最初から無いんだよな?

お前もこのままじゃ幸せになれない…だろ?」

「何言ってるの?」

「嘘をつかせたのは俺のせいだと思ってる。」

可南子は黙ったままだった。

「だけど結婚は出来ない。
これは可南子の為でもあるんだ。

ホントにごめん。」

可南子は何も言わずにただ涙をこらえこれずに泣いた。

「…ご免なさい。騙すつもりじゃなかったの。
ただ…要が好きだったの。」

「俺も悪いと思ってる。
努力したけど…お前を愛せなかった。」

可南子は嘘がバレて少しホッとしたのかもしれない。

嘘は遅かれ早かれすぐにバレただろうし、
このまま結婚しても幸せになれないと知っていたからだ。

可南子は結局要とは一緒になれなかった。

そして要はやっとヒカリに逢う決心がついた。

だけどヒカリはその時、
惠佑と新しい人生を歩もうとしていた。



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