Bitter Chocolate
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次の日の早朝、ヒカリは惠佑に送られて家に戻った。

玄関のドアを開けると兄が立っていた。

「友達って男でも出来たのか?

旅行だって麗子ちゃんとじゃ無いんだろ?」

兄が朝帰りのヒカリに説教をする。

ヒカリは兄を安心させるために惠佑とのことを話そうと思った。

「好きな人が出来たの。

同じ職場の人で…幼なじみ。

お兄ちゃん覚えてるかな?

昔、坂井歩って友達居たでしょ?」

「歩ちゃん?確か…不良の弟が居たよな?惠佑…とかいう…」

「不良じゃなくてバンドやってたから派手だっただけだよ。」

「お前のこと好きだってコクってたヤツだろ?」

「うん。彼が…今の好きな人。」

「え?」

兄はちょっとビックリしてたいた。

歩の弟の惠佑は近所で評判の不良だった。

銀色の髪をして
派手な奴らとつるんでる印象しかなかったからだ。

「アイツが紳士服屋でスーツ売ってるのか?」

「うん。

惠佑くんだって大人になったんだよ。

大学も卒業してるの。」

「アイツが大学かぁ。何か想像できないな。

って…ホントにアイツと旅行に?」

「うん。」

兄は少し戸惑ったがヒカリはもう武志の妻ではない。

しかも要と手を切ったのには安心できた。

「惠佑は今はマトモなんだよな?」

「昔からマトモだよ。

外見が派手なだけで優しくていい子だった。」

「今度は幸せになれるんだよな?」

「うん。」 

兄は子供を亡くし離婚した後、
脱け殻のようなヒカリが
少しでも立ち直ったことを喜ぶべきだと思った。

「お兄ちゃん、色々心配かけてごめんね。

もう大丈夫だから…心配しないで。」

ヒカリが突然そんなことを言ったので
惠佑との交際を反対出来なくなった。

しかしヒカリには要から何度も連絡が来ていた。

その度にヒカリは要に逢いに行きたかったが
惠佑を思うとそれは許されなかった。

惠佑はそれを察してヒカリからなるべく離れずにいた。

しかし24時間監視するわけにも行かない。

ヒカリは一人で仕事から帰る道で
とうとう要に捕まった。

「ヒカリ!車に乗れ!」

ヒカリは乗ろうとしなかったが
要が車から降りてきてヒカリの腕を掴み、
無理矢理車に乗せた。

「何で避けるんだ?

そんなに俺が嫌いになったのか?」

ヒカリは何も答えなかった。

「俺はお前無しじゃ何も手につかない。」

下を向いて目も合わせてくれなかったヒカリの瞳から
涙が溢れ落ちるのを要は見てしまった。

「ごめんなさい。もう逢うのは止めよう。」

ヒカリがそう言って車を降りようとすると
要に後ろから抱きしめられた。

「ヒカリ…愛してるんだ。」

ヒカリは目を閉じた。 

惠佑の顔が浮かんで
要の抱きしめる手をほどいた。

「どうして俺じゃダメなんだ?」

「ごめんなさい。」

ヒカリは一度も要の顔を見ずに車から降りた。

要は去っていくヒカリの背中をずっと目で追い続けた。

ヒカリが泣いているような気がして
車を降りて追いかけた。

「ヒカリ!」

呼び止めて肩を掴み、振り向かせるとヒカリはやはり泣いていた。

「どうして泣くんだよ?
泣くくらいならどうして俺のところに来ないんだ?」

「怖いの。要を好きになる自分が怖いの。」

要はそんなヒカリを抱きしめ、ヒカリは要の胸で泣いた。

そして泣き崩れるヒカリを見て
要は自分の存在がヒカリの幸せの妨げになる事を
初めて怖れた。

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