Bitter Chocolate
8
「可南子とはうまくいってる?」

「まぁね。」

要は元気のないヒカリが気になった。

「お父さん、良くないのか?」

「…。」

ヒカリは何も言わなかったけど
その代わりに涙が溢れてきた。

「…ちょっと…ごめん。」

車を路肩に停めると要の前で少し泣いた。

そんなヒカリを要は抱きしめる。

ヒカリはその胸を借りて泣いた。

「ごめん。ありがとう。」

「大丈夫か?
今、一人なんだろ?
武志も居なくて…」

「うん。…大丈夫。」

要の店の前に車を停めた。

「少し寄ってかないか?
お茶でも飲んでけよ。」

「ううん。大丈夫。」

ヒカリはとても大丈夫そうには見えない。

要は車を降りると運転席のドアを開けた。

「いいから降りろ。」

シートベルトを外してヒカリの腕を掴むと車から降ろして
店の上にある部屋に連れていった。

「少しゆっくりしていけよ。

こういうときは一人にならない方がいい。」

要はチョコレートとコーヒーを持ってきて
ヒカリの前に置いた。

「ありがとう。」

要の部屋に上がったのは初めてだった。

部屋は無駄な物が何もなくてあまり生活感がない。

サーフボードが3つほど壁に飾られてて
高そうな自転車が2台部屋の中に置いてある。

その他にギターや古そうな年代物のレコードやプレイヤーがあった。

生活してるというより趣味の部屋みたいに見えた。

「ギター弾けるの?」

「こう見えても昔はバンドやってたんだ。」

「サーフィンもするの?」

「最近は行けてないけどな。」

ヒカリはいろんな質問をした。

要のことが知りたかったからだ。

「自転車も好きなんだ。」

「まぁね。…だから怪我した。」

そういえば病院では松葉杖をついてたハズだ。

「あ、脚…大丈夫?」

「大丈夫だよ。折れてる訳じゃないし。」

「ご飯作ろうか?」

「いいのかよ?」

「うん。一緒に居てくれたお礼。」

ヒカリは冷蔵庫を開けて簡単な物を作った。

「ヒカリは料理上手いんだな。」

「そうでもないよ。」

「武志が羨ましい。」

ヒカリは少しドキッとした。

武志の名前を聞くと罪悪感が押し寄せた。

要はまっすぐにそんなヒカリを見つめている。

ヒカリは何となくその視線を避けた。

「そろそろ帰ろうかな。
今日はありがとう。」

帰ろうとすると要がヒカリの腕をつかんだ。

「もっと一緒に居たいんだけど…」

「でも…」

要に見つめられてヒカリはあの時を思い出した。

どうしようもなくその瞳に引き込まれて
要に抱かれたあの時…

要の荒くなる息遣い…
ヒカリの喘ぐ声…
そして光の射す中で要に抱えられ揺れてる白い脚を…

もう一度あんな風に抱かれてみたかった。

「ごめん…帰る。」

ヒカリはそんな思いに蓋をして
要の部屋を出ようとした。

その時、要の店の裏口の前に可南子が来ていて
インターフォンを押した。

要は咄嗟にヒカリを部屋に戻して抱きしめた。

そしてインターフォンに向かって言った。

「悪いけど今日は帰ってくれ。」

「どうして?」

「客が来てる。」

「…上がっちゃダメ?」

「大事な話をしてるから遠慮してくれないか?」

可南子は仕方なく帰って行った。

要に抱きしめられてヒカリの胸は苦しくなる。

要がヒカリを壁に押し付けてキスしてくる。

ヒカリはそれを避けられなくて瞳を閉じた。



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