セールス婚 〜負け組仮確定の私が勝ち組に成り上がるまで〜

 駐車場点検に行ってくると松井ちゃんに告げた私は、点検用紙の挟まれたバインダーとボールペンを片手にオフィスを出た。

 オフィスを出ると、すぐ右手にある壁に難波がもたれかかっていた。そんな難波の目の前に私が立つと、難波は口角を上げて笑った。

「良い調子やん」

「なあ、ほんまにこれでいいわけ?」

「ああ、これでええねん。俺が言うんやから間違いない」

 私が今日、給湯室のあらゆる補充作業を忘れ、自分が当番に当たっている駐車場点検まで忘れた理由。それは、難波の発案した『安売り大作戦』の一環だ。

 まずは、欠点、隙をつくり、それを見せていくという作戦。私は、それを実践している最中なのだ。

「なんか、これじゃあ、仕事ちゃんとしてないみたいやし、寧ろ逆効果な気がするんは私だけ?」

「お前だけ。っていうか、お前が今まで仕事やり過ぎてんやろ。仕事出来るんはええし、頑張るんもええけど、一人で全部背負うんは違う。これを機に、ちょっとくらい要領よく休憩せえ」

「要領よく休憩、かあ」

「せや。ほんで、男もお前に隙ができた事によって寄って来やすくなる。この作戦にはメリットしかないから、これからを楽しみにしとけ」

「はーい」

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