セールス婚 〜負け組仮確定の私が勝ち組に成り上がるまで〜
結局、私は色んな人に心配され続け、うまくいったのか、いかなかったのか、よく分からないような状態で仕事を終えた。
「ど阿呆」
「なんなん、急に」
「お前がこんな阿呆やとは思わんかったわ」
「意味分からん。何言うてんの、難波」
「ある意味、見直したで」
仕事上がり、突然私の目の前に現れた難波に拉致された私は、いつもの居酒屋で、ビールを片手に難波と小さな言い合いをしていた。
「なによ、褒めてんの? それ」
恐らく褒めてはいないであろう難波の言葉。その言葉の真意が分からず、若干機嫌を損ねていた私の視界に、ネイビーのブランド財布が入ってきた。
「あ!それ、私の」
テーブル越しの向かいに腰掛けている難波が私に差し出した財布は、紛れもなく私の財布だった。私は、そのネイビーの財布を受け取ると同時に、物凄く重要な事を思い出した。
「あ。私、コピー機の隣に財布置いといて、そのまま……」
ハンカチを、給湯室に。ポーチを、トイレに。ピンク色のお気に入りのペンを、リフレッシュルームに。そして、財布をコピー機の隣に置いていた私。
財布だけが、私の手元に帰ってきていなかった事に今更気づいた私の額には、薄っすらと嫌な汗がじわじわ浮かんできた。