セールス婚 〜負け組仮確定の私が勝ち組に成り上がるまで〜
「誰がわざと財布忘れんねん、ど阿呆!お前、脳みそないんか!」
「え、いや、だって」
「何が、だって、やねん。お前なあ、これ、俺が見つけてへんかったら帰って来んかったかも分からんで」
「でも、財布忘れたって方が、大きな隙が手っ取り早く出来るかなぁ……なんて」
えへへ、と笑って誤魔化す。そんな私を呆れた表情で見つめる難波に、私は、そりゃあそんな表情にもなるか。と、少しだけ納得した。
わざと財布を忘れたふりをして、しかも、その財布が手元にないことを今の今まで気づいていなかった。私は、とんだ馬鹿野郎だ。
「ほんま、お前なあ……」
「ごめん。ほんま、ごめん。あと、財布拾ってくれてありがとう」
一応、免許証やクレジットカード辺りは抜いておいた。流石に私もそこまでバカではない。だけど、財布を拾って、こうして届けてくれた難波には、感謝しかない。たった今、彼は私にとって命の恩人のようなものになった。
「ああ、うん。別にええ。けどな、お前、もうちょい頭使え」
「うん。分かった」
「ほんまかい」
「ほんまに。反省してるし、絶対に次からこんなミスせえへんように気をつける」
「ああ、そうしてくれ。まあ、普通なら絶対せえへんようなミスやけどな。っていうか、これに関しては気をつけるとか以前の問題やし」