セールス婚 〜負け組仮確定の私が勝ち組に成り上がるまで〜
今までで一番呆れた顔をした難波が、眉を八の字にしてビールを飲み干した。
だけど、難波も呆れているようだけれど、一番に私に呆れているのは私自身だ。いくら勝ち組に成り上がる為とはいえど、もっと考えて行動すべきだった。
「ああ、もう、これからは俺が指示した行動だけしてくれ。それに対して意見があれば言うてくれ。ちゃんとお前の意見には耳傾けるし、それなりに応じる」
「そりゃあ、助かります」
「……はあ。ほんま、手のかかるやっちゃなあ」
空になったビールジョッキをテーブルに置いた難波が大きな溜息を漏らした。
「すんませんね、手のかかる奴で」
「分かっとんなら、早う幸せなってくれ」
「難波もね」
「あー、うん、せやな。ありがとう。でも、まあ、俺は無理かもなあ」
「なんでよ」
「俺は、一回失敗しとるからな。しかも俺、多分、結婚向いてへんねん」
恋愛とかも出来へんやろうし、と言った難波の瞳がゆらゆらと揺れる。こんなに悲しげな難波の表情は久しぶりに見たかもしれない。
難波のこういう弱さを秘めた表情を初めて見たのは、離婚直後だったと思う。ひょっとしたら、難波はまだ元奥さんのことを引きずっているのだろうか。