セールス婚 〜負け組仮確定の私が勝ち組に成り上がるまで〜
コーヒーは、ちょっと苦いくらいがちょうどいいな。なんて思いながらコーヒーの入っている紙コップに視線を落としていた私に、呆れたような溜息交じりの言葉が降ってきた。
「なあ、安井。前の奴も、その前の奴も。全員、お前を振って他の女のとこに行く理由は同じやろ。せやのに、それを改善せんと何やってんねん」
彼の言葉に、私はゆっくりと顔を上げた。顔を上げ、割と真剣な表情をしている彼をただ見た。
「……でも、改善って、具体的にどうしたらいいんよ。私の場合、どうしようもないやん」
私は、しばらく間を空けてから難波に返事をした。
私は昨日、彼氏に振られた。しかも、それは一年記念日のデート中だった。彼が私と別れようと思った理由が、実は前々から好きな子がいて、その子との結婚を考えているから、というもの。
それを聞いた時、私は何よりも先に「ああ、またか」と思った。怒りよりも、悲しみよりも、まず最初に自分に呆れた。ガッカリした。
「あんなに自慢の彼女や言うてくれてたのにな……」
去年。28歳の夏に参加した合コンで出会い、意気投合した私達は秋に付き合い始めた。彼は、何度も私のことを「俺の自慢の彼女」だと言って、友達にも堂々と紹介してくれた。そんな彼が、私と付き合っている間に他に好きな子が出来て、しかも、その子と結婚をする。こんなの、普通に考えればおかしな話だ。腹が立って仕方がないはずだ。
だけど、こんな感じで彼氏に捨てられるのがお決まりになりつつある私には、こんなの慣れっこだった。