セールス婚 〜負け組仮確定の私が勝ち組に成り上がるまで〜
「まあ、上手くいってるなら良かったわ。安心した」
テーブルに視線を落とした難波が、優しく笑った。私は、その難波の笑顔と思いやりに、どうしてこの難波にバツがついているのかが改めて不思議に思えた。
「ほな、そろそろ次の作戦行ってもええかも分からんな」
「え、やっぱり次があんの?」
「当たり前やろ。こんだけで結婚できるんなら皆結婚しとるわ。ど阿呆」
向かいから伸びてきた難波の人差し指が、ぺん、と私の額を突いた。そう大して痛くはなかったけれど、なんとなく私は「痛いなあ」と発して額を押さえた。
「でも、次って何すんのよ」
「次はなあ、ちょっと俺の同級生に協力してもらうわ」
「ええ? なんでよ、協力してもらわなあかんことなん?」
「まあまあ、詳細はお楽しみや。明後日の休み、キタの方行くから空けとけよ」
「え、ちょ、なんなん。勝手に私が土曜日空いてるとか決めつけんといてよ。大体……」
「でも、空いとるやろ?」
「空いてる、けど……」
明後日は土曜日。休みだし、確かに予定もない。だけれど、それを当たり前のように見透かしてくる難波に少しばかり悔しさを覚えた。
「ほな、土曜日また連絡するわ」
「ちょっと!」
私の呼ぶ声を耳にも入れず、リフレッシュルームから去って行ってしまった難波。私は、溜息をひとつ吐きつつも、仕方なく土曜日の予定をスケジュール帳に書き込んだ。