セールス婚 〜負け組仮確定の私が勝ち組に成り上がるまで〜


「安井さん、安井さん、安井さん!安井さーーーーん!」

「なにー? どうしたん」

 資料をコピーし、クリップで纏めていた私の後ろから慌ただしい足音と私を呼ぶ声が聞こえてきた。

 振り向かずとも誰が私を呼んでいるかが分かった私は、振り向くこともなく返事をする。すると、そんな私を覗き込むようにして、ふわふわとした茶髪やメイクまでもが女の子らしい後輩が視界に入ってきた。

「あの!今日、合コンするんですよ!せやけど、人数足りなくて……安井さん来てくださったら相手も盛り上がるんで、来てください!ね⁉︎」

 ぱっちりと丸い目をした後輩、松井絵梨奈(マツイエリナ)が私の手を半ば無理矢理に握り、可愛らしい上目遣いを披露した。

「いや、松井ちゃん。自分、何歳やったっけ?」

「え? うちは、今年24です」

「そうやね。うん。はい。それじゃあ、私は?」

「安井さんは……この間、8月に29歳になりましたよね」

 目をくるっと丸くして、私が言いたい意味などまるで理解していないであろう松井ちゃん。

 私は、小さく溜息をひとつだけ零した。

「なにが言いたいかって言うと……私みたいなアラサーは、合コンで騒げる年じゃないって事。もう、ほんまにギリギリのとこに立ってんの、私。それに、去年の合コンで合コンは最後って決めてたから、もう合コンには参加出来ません。ほら、分かったんなら仕事する!」

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