セールス婚 〜負け組仮確定の私が勝ち組に成り上がるまで〜

「なんか結婚できそうな気がしてきたでしょ? ちょっと待ってて。そろそろ郁人戻って来てると思うから」

「あ、はい」

 休憩室から秋加が出て行く。一人部屋に残った私は、鏡とにらめっこをするかのように顔を合わせあっていた。

 本当に、何度見ても信じられない。これが本当に私なのだろうか。そう、鏡の中の自分のことを何度も疑った。

 そうしていると、私のいる部屋のドアノブが捻られるのが分かった。その開かれたドアからまず初めに顔を出したのは、秋加。

「ほら、ちょっと来てきて」

 ドアの向こう側にいる誰かに話しかける秋加は、その人の事を手招きしながら呼んでいる。

「なんやねん。分かっとるわ」

 ドアの向こうから聞こえてきた聞き慣れた声。その声に、私は難波が戻ってきたと分った。

 秋加が、笑顔でドアを思いきり開く。そして、秋加の次に難波がドアから顔を覗かせて部屋へと入ってきた。


 部屋に入るなり、難波は目を丸くした。目を丸くしたまま、なにも言いださずぽかんとした表情をしている。

「何よ、何か言うてよ!変? なぁ、変なん? やっぱり似合わへん?」

 立ち上がり、難波の元へ近寄る。そして、似合わん?似合わん?と何度も連呼した。

「うっさいなあ。俺のした注文やねんから似合わんわけあるか。この、どあほ」

 あまりに私がしつこく聞くものだから、難波は面倒臭そうな表情を浮かべながら私の額にデコピンをしてきた。

「いったあ! 何よ、もっと言うことあるやろ!大体、難波のおかげやなくて、秋加と一久さんのおかげやん」

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