セールス婚 〜負け組仮確定の私が勝ち組に成り上がるまで〜


 秋加の言った、答え。それが分かることなく私はモヤモヤとした感情を抱えたままで過ごし続けていた。

 相変わらず、難波の事は避け続けている。それに難波も気づいているのかいないのか、前ほど私に話しかけてこなくなった。


「安井さん」

「どうしたの? 松井ちゃん」

 朝一で、給湯室の紙コップやコーヒー豆を補充していた私に声をかけてきたのは、松井ちゃんだった。

「あの、安井さんに話したいことがあって……」

 松井ちゃんとは、同じ事務作業をしていることもあり業務内容の話はよくしていた。今回も業務内容かと思い、私はいつもと変わらない表情で「なに?」と返す。

「言うの遅れちゃったんですけど、実は、私……難波さんに付き合いませんかって言っちゃったんですよ」

「え……あ、そうなん。松井ちゃんからやったんや」

 松井ちゃんが言ったのは、まさかの難波との話だった。難波の話は、ここ最近全く聞いていなかったから、私は少しだけ驚いた。

「え!付き合ってる事、知ってたんですか⁉︎」

「あ、うん。まあね」

「あー、早川さんですねぇ」

 もう、と松井ちゃんが頬を膨らませた。

「それじゃあ松井ちゃん、難波とうまくやってるんや」

 良かった、と呟いた。すると、松井ちゃんはにこりと可愛らしく笑った。

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