セールス婚 〜負け組仮確定の私が勝ち組に成り上がるまで〜

「うーん、ちゃんと今までいた彼氏みたいに好きってわけじゃないんですけど、難波さんタイプですし、優しいですし、これから好きになれそうな気がするんですよねぇ。頑張ってうまくやっていきますね」

「そっか」

 何となく〝ちゃんと今までいた彼氏みたいに好きってわけじゃないんですけど〟という言葉が引っかかった。だけど、これから好きになるっていう可能性があるから付き合う。そういう形も今は少なくない。

 大切なのは、好きという恋心より、愛。そう秋加も言ってたしね。

「松井ちゃん、おめでとう。難波のこと、よろしくね」

「はい!ありがとうございます!」

 難波が幸せになってくれるなら、それがいい。どんな形から始まっても、未来に幸せがあるならそれがいい。

 そう思い松井ちゃんを祝福した私は、松井ちゃんが給湯室から出て行った後もしばらくぼうっと立ち尽くしていた。

 ああ、ほんまに付き合うてるんや。

 第三者ではなく、本人から聞くと急にものすごい勢いで湧いてくる実感。

 嬉しいような、寂しいような、悲しいような。私は、とても複雑な感情に心を揺さぶられていた。




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