セールス婚 〜負け組仮確定の私が勝ち組に成り上がるまで〜
───数時間後。
「早川くん、今日やっぱり行かれへん。ドタキャンになってごめんなさい」
退勤時刻を終え、オフィスの廊下で私は早川くんに今日行くはずだったご飯の予定の断りを入れた。
「あー、はい。分かりました。何か、用事とかできちゃったんですか?」
ドタキャンをした私に対しても、優しく、柔らかい対応をしてくれる早川くんは本当に良い人だ。優しくて、良い人過ぎて、私にはやっぱり勿体無い。
「ううん。用事っていうか……用事はないねんけど、ちょっと気分がのらんくて……ごめん。約束してたのに、こんな理由で……最低やな、私」
難波と付き合っていると松井ちゃんに聞いてから、自分でも分かりやすく気分が下がっていた。とても、こんなぐちゃぐちゃな感情のままでは早川くんとご飯に行けそうになかった。
断っても、断らなくても、早川くんには嫌な思いをさせてしまっていたと思う。
「ごめんね」
もう一度、謝った私。そんな私の腕を掴んだ早川くんは、突然、私の腕を引いて歩き始めた。
「えっ、早川くん!」
早川くんは、人気の少ない非常階段へと私を連れてくると、私の目の前に立ち、真剣な表情で私を見た。