セールス婚 〜負け組仮確定の私が勝ち組に成り上がるまで〜
「まあ、それなりにね」
私は、極力自然に、と意識をしながら口角を上げて笑った。
本当は、もう早川くんとは終わってしまった。私が、ダメにしてしまった。だけど、難波に変な心配をかけたくなかった。
「そっか。そりゃあ、良かった」
「難波の方もうまくいってるんでしょ? あ、再婚はできそう?」
すこしだけからかうように聞いてみる。すると、難波は「まぁ、歳も歳やし、考えん事はないけどな」と答えた。
その瞬間に、ちくりと痛んだ胸が、また、私に答えに近づくためのヒントを与えている。
「そうなんや。松井ちゃん、ええ子やし、上手くいくといいな」
頑張って、と付け足した私の唇は、何故か少しだけ震えていた。
「ありがとう。安井もな」
「……うん。ありがとう。それじゃあ、私、仕事戻るね」
「ああ、うん」
難波に背を向けて歩き出す。
まだ、この感情の名前はわからない。だけど、私は、自分の正直な気持ちに気づいてしまった。
私は、誰よりも難波に幸せになってほしいはずなのに、難波に結婚をして欲しくない、と、そう思ってしまった────。