セールス婚 〜負け組仮確定の私が勝ち組に成り上がるまで〜
難波の発した言葉に、私は驚いたという言葉では足りないくらいに目を見開いた。
「ほんまは、多分、結婚する前から。あいつの事を好きやと思って結婚したはずやった。けど、結婚しても、お前のこと放っておけんかったんは、多分、お前の方に〝好き〟って感情以上の何かがあったから。お前の前では、俺は俺でいられたから」
難波の言葉に、私の目から温かな何かが零れ落ちた。
「そんなん……全然知らんかった。なんで言うてくれへんのん」
「なんでって、お前、全然その気なかったやろ。それに、俺、バツついてんねんで。一番大事なやつを傷つけたないやろ」
「なんでよ……バツなんか関係ないやん。アホ」
アホちゃうん、と難波の胸に額をくっつけた。右手で拳を作り、難波の胸にポンとその拳を置く。難波の胸の鼓動が、微かに拳から伝わるのが分かった。
「なあ、安井」
「なによ」
「……ほんまに、俺でええの」
「うん」
「そっか」
「難波しかいんもん。こんな風にありのままの自分でいられるんも、弱いとこ見せられるんも。私な、難波が幸せになることが、私の幸せやって今気づいた」
そう言って難波の顔を見上げた私の背中に腕を回した難波が私の事を抱き寄せた。
人気がないとはいえ社内だ。普通ならこんなことはしないだろうが、今日はそれも気にならないくらいだった。そのくらい、今の私は幸せだった。