セールス婚 〜負け組仮確定の私が勝ち組に成り上がるまで〜
「安売りや、安売り」
割り箸に挟んだ出し巻き卵を口の中に放り込んだ難波が、次にタコのから揚げを箸ではさみながらそう言った。
「安売りって、どういうこと」
自信気に言う難波の『安売り』というアイデア。でも、私には、全くと言っていい程それが理解できなかった。
「安井、スーパーでお惣菜を買うとして、30円引きのシールが貼ってるハムカツか、それよりはちょっと高いメンチカツ、どっち買う?」
「え? そりゃあ、ハムカツ」
「せやろ? 高くてちょっとリッチなメンチカツよりも、安売りされてるハムカツに手が伸びるんが普通や。リッチなメンチカツは時々でええねん。毎日食べたら飽きるからな。結局どこに落ち着くかって、人は、安売りされてるような、ちょっと地味で完璧やないもんが好きってこと」
ビールジョッキを持ち上げた難波が、ぐびぐびと勢いよくビールを喉の奥に流し込んでいく。そんな彼の言った言葉の中に、私は一つだけ腑に落ちない言葉があった。
「難波。あんた、ハムカツが地味やって言うてんの?」
「え、何。急にどないしたん」
「私、ハムカツ大好物やねんけど。なんなん、その、ハムカツが地味で完璧やないって失礼な言い草」
「え、いや、なになに。お前、安売りってポイントじゃなくて、ハムカツが好きやからハムカツ選んだんかよ。っていうか、そこ、怒るポイントか?」