ハッピーエンドなんていらない
1.
カツカツとチョークで文字を書く音が響く。
相変わらずノートを書くだけのつまらない授業で、ふと黒板の隅が目に止まった。
もうすでに綺麗に消えたはずの文字が、徐々に浮かび上がっているような気がしたのだ。
…多分それは、わたしにしか見えていない、秘密の想い。
といっても、雪も知っているのだが。
今日の日直は湊だ。
さっきの放課に早速面倒くさいと愚痴をこぼしていた。
今のところあの文字は、雪以外の人には見つかっていなかった。
わたしが濃く書いてしまった文字を、雪がしっかりと消してくれたから。
ぼうっとその消えた文字を思い浮かべながら、少しだけ視線をそらすと湊の背中が目にうつった。
この席からは背中しか見えないんだ。
一生懸命にノートを書いてみる湊を見ると、やっぱり好きだなぁなんて思う。
だけど、と今度は湊とは遠い席にいる紫苑を見た。