ハッピーエンドなんていらない
黒板の端には、『冬野 雪は春風 彩芽が好き。私はそんな、雪が好き』と書かれていた。
他の人が見たら、そうなんだ、くらいにしか思わない一文だろう。
しかしわたしは雪が紫苑を好きだと言っていたのを知っている。
…あ、でも、今は雪とわたしが付き合ってるんだから、世間からしたら雪はわたしが好きってことになるのか。
納得して、またその文字をマジマジと見た。
…誰なんだろう、とても気になる。
それはきっと、こうして堂々とした字で雪への想いを綴れる誰かへの嫉妬でもあった。
心にモヤモヤと霧がかかったみたい。
その字の下を、すーっとなぞってみる。
堂々と、でもここに書くくらいならきっと今まで隠してきた、秘密の想い。
…あれ、でも、誰かの字と似てる。なんかこの字、見覚えがある…?
気になってその字を見つめていたときだった。
ガラッと大きな音を立てて教室の扉が開いたかと思えば、わたしに気にすることもなく誰かが入ってきた。
それは、制服を着た紫苑だった。