ハッピーエンドなんていらない

1.




「…紫苑、今日、部活は…?」

制服のままでいる紫苑に問いかけると、紫苑はニコリと笑みを浮かべる。

そうして誰かの机の上に置かれていた鞄の方に向かいながら、

「今日は休みなの」

と言葉を弾ませた。


よほど部活が忙しく、また居心地の悪い場所なのだろう。

部活が休みであることを、やけに嬉しそうにしている。


休みであることは聞いていなかったから、とてもビックリした。

もしかしたらわたしが、紫苑が言ったのを忘れてしまっていただけかもしれないのだけれど。


「休みなんだ、大会前なのに」

珍しいねと笑ってみると、紫苑は鞄をあさりながら「大会前だからだよ」と言った。

紫苑は手を止めると、鞄のチャックを閉じてふとこちらを向いた。

「大会前だから、キツキツのスケジュールより余裕があるほうがいいだろうって。

本番成功するためにも、休息は、大切だから」

って先生が、と付け足して紫苑は苦笑いをする。

< 144 / 265 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop