ハッピーエンドなんていらない



わたしは、湊が好きで、でも隠さなきゃかけなくて、だから、こうして黒板に書いた。

黒板の隅に、誰にも知られたくない秘密の想いを、そっと。

まあ、あっさり雪に見つかってしまったけれど。


その時のあの苦しくて切ない思いを、今ちょうど、紫苑が黒板の文字を眺めながら浮かべている。

あの時のわたしの表情なんて、鏡を見てないから知るはずもないのに。

ああ、ちょうどこんな感じの顔をしていたっけなと、紫苑に感じる既視感。


「その文字ね、」

流れ始めた沈黙を破る、紫苑の愛おしそうな声。

湊を呼びかけるときのハツラツとした感じとはまったく違っている。

弱々しく、今にも粉々になって消えてしまいそうな声。



「わたしが、書いたの」

その言葉を、口にすることすら辛そうだ。


ずっとずっと隠してきた想いを、黒板に隅に内緒で書くくらい、隠し切れなくなった想いを、紫苑が今肯定した。

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