ハッピーエンドなんていらない



紫苑の中で、心の葛藤があったはずだ。

それを口にしてしまうことで、雪を好きだと肯定することで、わたしに悪いな、みたいな。

浮かべられた笑みは切なくって、こっちまで胸が苦しくなった。


「雪のこと、好きなの?」

わかっているはずの質問をする、意地悪なわたし。

紫苑はまさか質問してくるとは思わなかったのか少し驚いた。

それからわたしの方を向いて、また困ったような笑みを浮かべた。


「好き、だよ?」


ごめんねと、付け足されそうな言葉。

苦しそうで悲しそうで、その声が震えていることに気付かないはずがなかった。


黒板の文字に見覚えがあったのは、ああつまりそういうことなのか。

黒板にこの文字を書いたのは紫苑で、だから文字に見覚えがあったわけで。


わたしが湊への想いを伝えられず閉じ込めていたように、紫苑も雪への想いを隠していたんだ。

わたしが湊と幸せそうにする紫苑を見て胸を痛めていたように、紫苑もわたしと雪が笑い合うのを見て胸を痛めていたんだ。


でも、なら、なぜ…?

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