ハッピーエンドなんていらない



雪はその質問に少しだけ唸り声を出して悩んでいた。

なにやら言いにくそうな顔をしながら、「あのな」と話を切り出す。


「紫苑が好きだっていうもの、完璧な嘘というわけではないんだ」

雪の思わぬ発言に、驚いて目を見開いた。

「どういうこと?」

気になって首を傾げてみると、雪は困ったようにして頭をかいた。

それからその手を降ろして、もう片方はまだわたしと繋いだまま、じっとわたしを見た。



「ほんの一時期、紫苑に想いが傾きかけたことがあったんだ」


鈍器で殴られたような衝動がして、一瞬目がチカチカとした。


…ああでも、その頃雪を好きではなかったわたしに、ショックを受ける権利はないか。


わたしは「そうなんだ」とだけ答えた。

その他に言う言葉が思いつかなかったというものある。


「実は、紫苑にも好きな人がいて、その人にもまた好きな人がいるんだって聞いて。

それからしばらくお互いの話をしてて、それもあって、傾きかけた」

< 162 / 265 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop