ハッピーエンドなんていらない



うつろな目でじとりとわたしを見つめる。


いつもよりも元気のない彼女に、かける言葉がなかなか見当たらなかった。

それは雪も同じらしく、気を紛らわすためにあたりを見渡していた。


おそらく、ここに来ていない湊の姿を探しているのだろう。


そんな雪を見て紫苑はふふっと笑うと、

「湊なら、もう先に行っちゃったよ」

ぽろりとそうこぼした。


その目は悲しい色をしているのに、ぎこちない笑みはそれでも本物で。

紫苑本人すら、自分の本当の気持ちに気が付いていないような、そんな気がした。

そんなような笑みだった。


「紫苑は、1人でどうしたの?」

雪が恐る恐る尋ねると、紫苑はいつもみたいにえへへと笑った。

けれどもやはりその笑顔に元気はなくて、瞳は深い悲しみの色をしている。

口元もむりやり吊り上げたみたい。


紫苑は、自分がどれほどぎこちない笑みを浮かべているのか気付いていないらしい。

そんな笑顔を浮かべたまま、なんのためらいもなくこう言った。



「湊に、フラれちゃった」


語尾にてへっとでも付きそうな明るい口調。

だけれども重たく言葉ののしかかるようなトーン。

矛盾した声と言葉は、彼女が自分の気持ちに気付いていないことを表していた。

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