ハッピーエンドなんていらない



…ねえ、きっと、紫苑、あなたは…。

伝えたい気持ちをグッとこらえる。

きっと、今このタイミングで言うことではない。

わたしだって、確信をしているわけではないのだから。


「…どうして、湊が紫苑を振ったりなんかしたんだ?」

不思議そうな顔をして首を傾げた雪を見て、そういえば雪は知らないんだっけと思い出す。


紫苑が雪を好きであること。


きっと湊はそれを知ったから、紫苑のために別れを選んだのだろう。


そう思い紫苑を見ると、紫苑は雪の質問に困って難しそうな顔をしていた。

それから、言い出しくそうに口を開くと、


「わたしが雪のことを好きだから、かなぁ」

わたしの方をチラッと見て、遠慮しながらそう呟いた。


紫苑のいきなりの告白に、雪は心底驚いたような顔をした。

それに対して照れ笑いをした紫苑が、

「だからね、フラれて正解」

あははと乾いた笑い声をこぼしながらそう告げた。


だけれど、その瞬間、その瞳からポロリと涙がこぼれ落ちた。

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