ハッピーエンドなんていらない



何かが頬を伝う感覚に、やっと自分が涙を流していることに気が付いた紫苑。

そっと指で涙をすくいながら、少し慌てた様子でまた笑った。


「もう、どうして涙が出るのぉ」

やだなぁなんて言いながら、止まらない涙を拭い始める。


…湊なんて好きじゃないのに、わたしが好きなのは雪なのに。

紫苑はきっとそういう気持ちで、余計に苦しいのか表情が険しく歪んでいく。

雪を好きだと言い聞かせれば言い聞かせるほど、涙することで自己嫌悪に陥る。


「全然、涙止まらないや…」


なんでだろうと、へらっと笑った紫苑の笑みが、グサリと心に突き刺さる。


しゃくりをあげることなく、静かに涙だけを流す紫苑に、一歩近付く。

「ねえ、紫苑は誰が好きなの?」


確信したわけじゃないけれど、紫苑の涙でわかった気がする。

確信したわけじゃ、ないけれど。

だけど、きっと紫苑がこうして涙するのは。

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