ハッピーエンドなんていらない



わたしの言葉に、紫苑は潤んだ目でぱちぱちとまばたきをした。

そのたびに、まぶたにたまった涙がポロポロのこぼれ落ちる。


「でも、わたしは…っ」


雪が好き。

きっとそう言いたかったのであろう。

しかしその想いは声にならず、かすれた息とともに宙へと消えていく。


気を張っていたのか、はぁはぁと息切れする紫苑。

それからギュッと握りしめていた手の力をぬいて、下を向いた。


そうして紫苑は、わたしたちが来たときのように、また呆然と立ち尽くす。

少しだけ口を開けて、何かに混乱している顔をしている。


「わたしは、湊のことが、好きなのかな…?」


何もない両手を見て、確かめるように呟いた。


湊への想いは決してその手に見えるものではなくて、両手には何もない。

だけれど紫苑はきっと、何かを見たのだろう。

例えば、湊にもらった何かを。

< 171 / 265 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop