ハッピーエンドなんていらない
わたしの言葉に、紫苑は潤んだ目でぱちぱちとまばたきをした。
そのたびに、まぶたにたまった涙がポロポロのこぼれ落ちる。
「でも、わたしは…っ」
雪が好き。
きっとそう言いたかったのであろう。
しかしその想いは声にならず、かすれた息とともに宙へと消えていく。
気を張っていたのか、はぁはぁと息切れする紫苑。
それからギュッと握りしめていた手の力をぬいて、下を向いた。
そうして紫苑は、わたしたちが来たときのように、また呆然と立ち尽くす。
少しだけ口を開けて、何かに混乱している顔をしている。
「わたしは、湊のことが、好きなのかな…?」
何もない両手を見て、確かめるように呟いた。
湊への想いは決してその手に見えるものではなくて、両手には何もない。
だけれど紫苑はきっと、何かを見たのだろう。
例えば、湊にもらった何かを。