ハッピーエンドなんていらない



その手に、ポツリポツリと涙がこぼれ落ちていた。

自分に言い聞かせるようにしていたのだろう。

自分は雪が好きなんだと、無意識のうちに言い聞かせていたのだろう。


張っていた気を解いた瞬間に、ただ言い聞かせていただけだと気付いたんだ。


「…きっと、気付かなかっただけで、前から湊のことを好きだったんだ、わたし…」

必死に涙を拭い始めた紫苑に、そっと頷いた。


きっと、雪を好きだった過去の想いが、紫苑の心に嘘をついたんだ。

消したくなくて、消えたくなくて、まだ好きだなんて嘘をついて。

それに惑わされて雪が好きだとばかり言い聞かせていた。

言い聞かせれば言い聞かせるほど、本当の想いはそれに隠されてしまって。

心の奥底、自分でも知らないところでゆっくりと大きくなっていった想いが、本人を混乱させた。


「いつから、好きだったんだろう」

ポツリとこぼした言葉に、ふと笑いかける。

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