ハッピーエンドなんていらない
紫苑の家は集合場所からそう遠くない。
すぐについた紫苑の家のインターホンを、恐る恐る押した。
ピンポーンと間延びした音が沈黙した空気の中に響いて溶けていく。
途端にパタパタと騒がしい音がして、ガチャリと玄関の扉の開く音がした。
出てきたのは、紫苑じゃなかった。
「もしかしてあの子、連絡してなかった?」
やだぁと声をあげる紫苑のお母さんだった。
口元に手をあてがう姿や、おしゃれの似合う容姿を見ると、ああ親子だなと思う。
…にしても、連絡してなかったってことは、今日は休むってことかな。
「はい、なんの連絡もないです」
苦笑いをしながら答えると、紫苑のお母さんはごめんねぇと今度は頬に手を当てた。
それからお母さんは眉を下げて悲しそうな顔をすると、ため息混じりに呟いた。
「紫苑ね、昨日から入院することになっちゃったのよ」
その言葉にわたしの顔から笑みが消えて、思わず雪のほうを見た。
雪もわたしと似たような表情をして、わたしをチラッと見やった。